十字架上の貴婦人 第7話
第二章 十字架の令夫人
――暗い……
ぼんやりと意識を取り戻した貴和子は、もやの残る頭で思った。薄暗く、窓のない部屋に自分がいる。何故わたしがこんな所に……。
部屋、そう呼ぶにはあまりに粗末な造りだ。
打ちっ放しのコンクリート剥き出しの壁。
光のない室内を照らすのは、テーブルに置かれた一つの燭台だけだ。床もコンクリートで敷きつめられ、そのひんやりとした感触が足の裏からつたわってくる。
――裸足……?
その驚きが貴和子を完全に覚醒させた。ストッキングだけではない、スカートも下着も脱がされているのだ。
奪われたのは衣服だけではなかった。
天井から垂れ下がる二本の鎖に両の手首を巻かれ、鉄球のついた鎖が両方の足首を捕らえている。首にも鉄輪が嵌められ、ほとんど顔も動かせない。自由さえもが奪われていたのだ。
中世のヨーロッパで拷問を受けているような姿だった。
――どうして? わたしがこんな所に
叫ぼうにも首輪が喉を締め付けてくる。鎖の動く範囲で手は動かせるが、脚の鉄球の重さは、貴和子の力ではどうにもならない。
ジャラジャラという鎖のしなる音が、不安な胸に突き刺さってくる。視線の先には重厚そうな鋼製のドアがあり、それが外への唯一の扉らしい。
――あの男が?
記憶がはっきり戻ってきた。
夫の使いだという男の車に乗り、気を許した途端、顔にスプレーを浴びせられ意識を失ったのだ……。
「お目覚めかい? 奥さん」
不意に背後から男の声がした。ゆっくりした動きで彼女の正面に姿を見せる。
「気分はどうだい?」
男の全身が貴和子の視界に入った。
よく日焼けした褐色の肌、ボディビルで鍛え上げたような肉体、そして股間にそそり立つ黒塊――まるで怪物のようだ――に彼女は息を飲んだ。彼も貴和子と同じく全裸だ。ただ、この暗がりでもサングラスを掛けていた。
――あの水田という男だろうか
体格の良い男だったが、一度見たきりでは確信がもてない。声も似ているようだが、違うとも思える。彼は短髪だったが、男はやや長髪でパーマをかけているようにも見える。
全裸で吊るし上げられている恥ずかしさを、貴和子はしばし忘れた。
「あなたは……、誰……」
ようやく声が出せるようになった。
「薄汚い暗闇からずっとあんたを見ていたのさ。あんたは知らないだろうが、ずっと前からな」
弄るように指先で下あごを持ち上げられた。抵抗しようにも首さえ振れない。貴和子の全身に鳥肌が立った。「やっぱり近くで見ると、たまんねえほどいい女だな、あんた。唇の形もいいよ、それに下唇がちょっと厚めなのも、淫蕩な感じでいいぜ」
両頬を掴まれ、口を開かされた。
「歯の白さ、歯並びの良さ、美人の条件がすべて揃ってる」
ザラリとした手のひらが乳房に押しつけられた。震える肉房を柔らかく揉まれると、彼女の意に反して乳頭が硬くなる。
「乳房も言うことないな。大きすぎず小さすぎず、まだまだ張りもたっぷりあって、揉みがいもありそうだ」
痙攣を起こしたように貴和子の喉が引きつった。快感にはほど遠い嫌な感触で、腋の下に冷たいものが流れた。
「ほんとにいい身体だぜ……、俺が思っていた通りだ。この手触りも最高」
ピシッ。
男は平手で彼女のヒップを軽く叩いた。
「ひっ……」
痛みとも悦びとも違う奇妙な感覚が、貴和子の肉体を締めつけた……。
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